“The last 10 games we played mean nothing to us right now. It’s down to a one-game season, Ohio State is our season. If we win this game, then it’s a successful season. If not, then it’s not a successful season.”「過去10試合は今の僕らにとって何の意味もない。1試合だけのシーズンになった、オハイオ州立大との試合が我々のシーズンだ。この試合に勝てば、それは成功したシーズンだ。そうでなければ、成功したシーズンではない。」
ミシガン大の前ヘッドコーチであるJim Harbaugh(ジム・ハーボー)が現役時代の1986年に残した言葉です。
今シーズンのミシガン大学は、攻撃力が非常に低く、特にパスオフェンスが絶望的に弱いという欠点を抱え、6勝5敗という成績でレギュラーシーズン最終週Week 14のオハイオ州立大戦を迎えました。
対するオハイオ州立大は、アウェイでオレゴン大に1点差で敗れたものの、安定した強さで10勝1敗(カレッジフットボールプレーオフランキングは3位)という堂々たる成績を残していました。
今回で120試合目のライバル対決、通称”The Game”。通算対戦成績はミシガン大が61勝、オハイオ州立大が51勝、6引分け。
天気は快晴ではあるものの、気温は27℉(≒-3℃)、体感気温は22℉(≒-6)という厳しい寒さの下でキックオフを迎えました。
直近3年はミシガン大が三連勝
The Gameは2021年から2023年という直近3年間はミシガン大の三連勝という状況でした。それ以前は、2012年から2019年にかけてオハイオ州立大が八連勝をしていました(2020年の試合はパンデミックのため中止)。
2021年シーズンは、雪が舞うミシガンスタジアムで、RBのHassan Haskins(ハッサン・ハスキンズ)がランで169ヤード獲得・5TDと大活躍し、42-27でミシガン大が勝利。
2022年シーズンは、オハイオスタジアムにて、RBのDonovan Edwards(ドノバン・エドワーズ)がランで216ヤード獲得・2TDと爆発し、45-23でミシガン大が勝利。
そして、2023年シーズンのミシガンスタジアムでの試合でも、ミシガン大がランで156ヤード獲得・2TDを奪い、30-24で勝利を収めました。
このように、直近3年間はミシガン大がランで攻勢をかけて勝利するという展開が続いていました。
下馬評ではオハイオ州立大が圧倒的優勢
この試合の賭けのオッズでは、オハイオ州立大の「-20」、つまり20点差をつけてオハイオ州立大が勝つか否か、という線で仕切られており、今シーズンの勝敗や戦力差から、オハイオ州立大が圧倒的に優勢の状況であると考えられていました。個人的には、今シーズンの両校の戦いぶりを見てきた限りでは、このような評価は妥当だと感じていました。ESPNアナリティクスによる試合前の評価では、オハイオ州立大の勝率が92.2%と出ていました。
実際、11月16日にミシガン大はインディアナ大に15-20で敗れたのに対して、翌週23日にインディアナ大と対戦したオハイオ州立大は38-15で圧勝していました。
しかも、ミシガン大は、エースTEでパスのメインターゲットであるColston Loveland(コルストン・ラブランド)と全米最強CBとの呼び声高いWill Johnson(ウィル・ジョンソン)という超重要選手2名をケガにより欠いて試合に臨むことになりました。一方のオハイオ州立大は、主要な選手にけが人は出ておらず、戦力的に問題ない状況。
この試合を中継したFOXでは試合前に解説陣がそれぞれスコアの予想をするのですが、ミシガン大OBでハイズマン賞を獲得したレジェンドであるCharles Woodson(チャールズ・ウッドソン)が、ただ一人30-27でミシガン大の勝利との予想を示した際も、他の解説陣が「マジかよ…」と失笑するような雰囲気でした。
ミシガン大を応援する人たちも、「正直なところ、今年は厳しいだろうな…」というのが共通認識だったと思います。
前半
先制点を奪ったのはオハイオ州立大でした。オハイオ州立大は今シーズンのレッドゾーンオフェンス(敵陣20ヤード以内での攻撃)の機会が44回あり、そのうち37回(84%)をタッチダウンにつなげ(フィールドゴールは4回)、全米で最高のタッチダウン率を誇っていました。
しかし、この場面ではオハイオ州立大は敵陣11ヤード地点まで進んだものの、タッチダウンには至らずにフィールドゴールによる3点にとどまりました。後から振り返ると、ミシガン大としてはここでズルズルとタッチダウンを取られずにロースコアの試合展開に持ち込めたことが大きかったように思います。ランプレーはほとんど止めていました。
オハイオ州立大が強いのは攻撃だけではありませんでした。守備も全米最強クラス。レッドゾーンディフェンスでも、25回の機会のうちタッチダウンを奪われたのは9回のみ(36%)で、全米で最低の数字でした。さらに、ゴール前の”Goal-To-Go”ディフェンスでもタッチダウンを奪われたのは47%(平均は75%)で全米1位。とにかく「エンドゾーン前で強い」ということが数字に表れていました。
実際、ミシガン大が0-3で追いかける第2Q残り15分の時点で、敵陣3ヤードでの4th&1のシチュエーションで4th Downギャンブルに打って出たものの、オハイオ州立大は中央のランを止めて0点で凌ぎました。
これで流れは一気にオハイオ州立大に傾くかと思われた矢先、ミシガン大が敵陣深くでオハイオ州立大QBのWill Howard(ウィル・ハワード)が放ったパスをインターセプト。それを確実にタッチダウンに結び付けて7-3と逆転。
その後、ミシガン大は54ヤードのフィールドゴールで3点を加え、オハイオ州立大は前半終了間際にスーパースター1年生WRのJeremiah Smith(ジェレマイア・スミス)へのパスでタッチダウンを奪い同点に。
前半は10-10と予想外にミシガン大が健闘するという展開で終わりました。特にミシガン大は、DTのMason Graham(メイソン・グラハム)とKeneth Grant(ケネス・グラント)を中心に、オハイオ州立大のラン攻撃を36ヤードに抑えました(一方、ミシガン大のラン攻撃は82ヤード獲得)。
ラン攻撃で優位に立ったチームが、過去20回の対戦で勝利を収めているというデータがあり、その傾向を踏まえればミシガン大勝利の可能性も見えてきたような展開となりました。
後半
第3Qはオハイオ州立大のペースで進みました。オハイオ州立大の攻撃は順調に前進し、ミシガン大の攻撃は3回で終わらせました。しかし、肝心のところでハワードが本日2つ目のインターセプトを奪われ、得点には結び付かず。
ところが、その直後に全米No.1セーフティとの呼び声高いKaleb Downs(ケイレブ・ダウンズ)が敵陣深くでインターセプト!オハイオ州立大は絶好のフィールドポジションから攻撃を始めましたが、これもタッチダウンにはつながらず。
フィールドゴールで3点は確実かと誰しもが思っていましたが、またもやJayden Fielding(ジェイデン・フィールディング)が34ヤードのフィールドゴールを失敗。スコアは10-10のまま動かず第3Q終了。同点で第4Qを迎えたのは1999年以来のようです。
第4Qに入ると潮目が変わりました。3rd Downでのパスを連続して決めて攻撃を継続し、走り専門QBのAlex Orji(アレックス・オルジ)の左オープンへのランかと思わせてからのリバースからのパスでオハイオ州立大のパスインターフェアランスを誘発。今シーズン、再三プレーしてきたオルジの単純なランかと見せかけてのリバースパスという、これまでの試合すべてをフリに使ったかのようなプレーで、敵陣13ヤードまで侵攻します。
しかし、上記のとおりオハイオ州立大のゴール前ディフェンスは全米最強レベル。話は単純には進みません。敵陣3ヤードからプレイアクションを挟んで投げられたパスを、オハイオ州立大DEのJack Sawyer(ジャック・ソウヤー)がインターセプト!FOXの実況アナウンサーGus Johnson(ガス・ジョンソン)の声がひっくり返るほどのビッグプレー。またしても得点は動かず攻守交替。
オハイオ州立大が一度もファーストダウンを更新できず、再び攻撃権はミシガン大へ。残り6分13秒・自陣40ヤード地点から、勝負どころの攻撃が始まりました。残り3分26秒、わずかにフィールドゴールの射程圏内から外の敵陣44ヤード地点・3rd&6からRBのKalel Mullings(カレル・ミュリングス)のラン。これが結果的には勝敗を決めたのではないかと思いますが、ミュリングスが2か月前のUSC戦での活躍を再現するかのように27ヤードの前進。フィールドゴールを蹴ればかなりの確率で決められるであろうところまで進んできました。
ツーミニッツタイムアウトが明けて残り1分55秒・3rd&2の場面で、オハイオ州立大がまさかのイリーガルサブスティテューション(選手が12人以上フィールドに出てしまう反則)を犯し、ミシガン大が労せずしてファーストダウンを更新。オハイオ州立大に時計を止めるためにタイムアウトを使い切らせた上で、Dominic Zvada(ドミニク・ズバダ)が21ヤードのフィールドゴールを決め13-10と逆転!
残り45秒からオハイオ州立大の最後の攻撃となりますが、一度もファーストダウンを更新することができず終了。結局、第4Qではオハイオ州立大の攻撃は完全に抑え込まれてしまいました。
氷点下の気温での、火花散るアツい試合は、13-10でミシガン大によるアップセットという思いもよらぬ結末となりました!
オハイオ州立大のラン攻撃はなぜ止められたのか
この試合でも、従前の傾向のとおりラン攻撃獲得ヤードで上回ったチームが勝利しました。「ミシガン大のラン攻撃が炸裂した」というよりは、「オハイオ州立大のラン攻撃が不発だった」という方が適切かもしれませんが、このことについてオハイオ州立大の前ヘッドコーチであるUrban Meyer(アーバン・マイヤー)が解説をしていました。
↑の動画で解説されていますが、オハイオ州立大のランは26回のキャリーで77ヤード(1回平均約3.0ヤード)、26回のうち9回がノーゲイン又はロス、ダブルエースRBの一角であるTreVeyon Henderson(トレビオン・ヘンダーソン)は10回のキャリーでわずか21ヤード、試合の最後14プレーで奪ったファーストダウンは0個、という厳しい数字が並びました。
その結果に至ったポイントとして、①ミシガン大が外から包み込むような守り方(コンテイン)をしたこと、②オフェンスラインとディフェンスラインの境界であるスクリメージラインをミシガン大の選手が突き破って守ったこと、という点が指摘されています。
もちろん選手個々の能力やさらに細かい戦術的駆け引きがあったと思われますが、上記2点がこの試合の大きな要素になったことは間違いなさそうです。
集中していればフォルススタートはしない!?
2023年のミシガンスタジアムでの試合も、2024年のオハイオスタジアムでの試合も、アウェイのチームは一度もフォルススタートの反則を犯しませんでした。
2023年の試合はミシガンスタジアムで観戦しましたが、最初から最後までオハイオ州立大の攻撃中はスタンドから盛大なクラウドノイズが浴びせ掛けられていました。今年の試合でも真逆のことが起こっていたはずです。
しかし、フォルススタートの反則は一度もありませんでした。ミシガンスタジアムとオハイオスタジアムは、いずれも屋根がなく、声が反響しないのでフィールド上ではクラウドノイズはあまり関係がないのかもしれません。それでも、普段の試合とは全く異なる緊張感に覆われていたはずです。
そんな張り詰めた状況でも、無駄な反則をしなかったという点に、両チームの日頃の練習や準備の成果が表れていたのかな、と感じました。
試合終了後の乱闘
試合終了後、ミシガン大の選手がフィールド中央にあるオハイオ州立大のロゴの上にミシガン大の旗を立てようとしたこと(いわゆるFlag Planting)に端を発して両チームの選手・スタッフによる乱闘が発生しました。この乱闘を鎮めるために、警官は一部の人に対してペッパースプレーを噴射したそうです。
結局、両校に対しては喧嘩両成敗的な形で、10万ドルの罰金が科せられました。
オハイオ州立大はプレーオフ進出が濃厚だが…
オハイオ州立大は、2024年シーズンの目標として、①ミシガン大に勝利、②Big Ten Championshipにて勝利、③National Championshipにて勝利、という三つを掲げていましたが、この敗戦で①と②の不達成が確定しました。
今年から12チーム制となったカレッジフットボールプレーオフへの出場は堅そうですが、果たしてNational Championshipまで勝ち上れるか…。ナショナルチャンピオンになるためには、プレーオフで4試合に勝利する必要があります。
ミシガン大QB・Davis Warrenの物語
ミシガン大の先発QBを担ったのはDavis Warren(デービス・ウォレン)。彼は、ウォークオンと呼ばれる、スカラシップの枠外からチームに加わった選手です(日本の大学で例えれば、スポーツ推薦ではなく、一般入試に合格して大学に入り一般枠で入部した選手、というイメージです)。
ウォレンは開幕戦から3試合に亘り先発QBの座にありましたが、その3試合でのタッチダウン数が2であったのに対して、6つもインターセプトを献上していたことから、4試合目のUSC戦からは他のQBに先発の座を明け渡していました。しかし、他のQBのパフォーマンスも芳しくなかったことからウォレンが再度先発QBとなり、その後の4試合ではタッチダウンを4つ(普通に少ない数字ではあるが…)、インターセプトは1つのみという安定(?)した成績を残し、The Gameの先発QBとなりました。
そんな彼について、試合の直前にESPNで↓の動画が流されました。少年時代にLeukemia(白血病)に罹患したものの、そこから回復してミシガン大のQBを務めるまでになったという感動的なお話です。
ウォークオンでミシガン大のフットボールチームに入ることは容易ではないはずですし、絶対的エースQBがいた昨シーズンまでは試合に出場することができなくても腐らずに練習してチームに残り続け、大舞台で勝利に導いたのですからただものではありません。
中継の視聴者数について
この試合を放送したFOX Sportsによれば、1232万3000人が視聴をし、この数はBig Tenの試合では最多で、2024年シーズンのカレッジフットボール全体ではWeek 8に行われたテキサス大vsジョージア大1319万人に次ぐ数字のようです(参照した記事はこちら)。
しかし、これでも2023年以前のThe Gameの視聴者数に比べると、それらを大きく下回る結果となりました。2023年は両校ともに無敗で激突し、オハイオ州立大がCFPランキング2位、ミシガン大が同3位だったということもあり、1906万5000人という2011年以降ではカレッジフットボールのレギュラーシーズンの試合で最多の視聴者を集めました。2022年は1714万人、2021年は1589万3000人とのことです。
ちなみに、大谷翔平選手らを擁するロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・ヤンキースが対戦した2024年のワールドシリーズのアメリカにおける平均視聴者数が1580万人、日本における平均視聴者数が1210万人だったようですので、The GameはMLBのワールドシリーズと同等の視聴者数を有する試合だといえそうです(参照した記事はこちら)。
関連するYouTube動画集
この試合に関連する動画はYouTube上に無数に存在しますが、その中でも私が興味深いと感じたものをいくつか紹介いたします。
まずは、FOXが作成した正統派のゲームハイライト。試合内容を把握するには最適の動画です。
ミシガン大寄りの実況とオハイオ州立大寄りの実況の双方を交えてドラマチックに編集されているハイライトはこちら↓。毎年同じような趣向の動画が作られていますが、どれも秀逸です。
試合前後の映像を含めて、ミシガン大の勝利の物語として作られた動画はこちら↓。以前紹介したミシガン大の前ヘッドコーチであるジム・ハーボーの物語と同じ趣です。
2024年シーズンのミシガン大は、結果だけを見れば7勝5敗という残念な数字となりましたが、The Gameに勝利し、12月4日にはNo.1高校生QBのBryce Underwood(ブライス・アンダーウッド)の加入も決まったということで、(まだボウルゲームが残ってはいますが)満足できる形でシーズンを締めくくれたのではないかと思います。
本記事はこれで終わりです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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