今回のNILを巡る争いの概要
ネバダ大学ラスベガス校（UNLV）の先発QB・Matthew Sluka（マシュー・スルカ）がX（旧Twitter）上で、2024年のカレッジフットボール・シーズンにレッドシャツイヤーを使い、シーズンの残りの試合には出場しないことを発表しました。
突如として行われたこの発表は、カレッジフットボール界に衝撃を与え、トランスファーポータルとNIL（Name, Image, and Likeness）の約束の不履行を巡る初めての争いの一つとなりました。
スルカのXへの投稿によると、今シーズンの残りの試合を欠場するという彼の決断は、「入学後に守られなかったある約束に基づくもの」だとされています。
スルカはそれまでの4年間をFCSのHoly CrossというチームでQBとしてプレーし、2024年シーズン前のオフシーズンにUNLVへ移籍しました。スルカの代理人であるMarcus Cromartie（マーカス・クロマーティ）によると、スルカはUNLVのアシスタントコーチから、UNLVへのトランスファーに対して少なくとも10万ドルの支払を口頭で約束されたといいます。そして、この契約は、UNLVのNILのコレクティブである“Friends of UNILV”が支払うことになっていたと伝えられています。
しかし、スルカは、約束されたとされる10万ドルではなく、コレクティブから僅か3000ドル（十分な大金ですが約束されたとする金額に比べれば少額）の支払いしかなされなかったと主張しています。
スルカがXでこれらの主張を公にした翌日、チームメイトでRBのMichael Allen（マイケル・アレン）もスルカと同様に、今シーズンの残りをレッドシャツイヤーにすることを発表しました。
こうしたスルカとアレンによる約束の不履行を理由に欠場をするという前例は、同じような境遇にある他のNCAA学生アスリートたちにも影響を与えるかもしれません。
NCAAのルール
現在のNCAAの規則では、高校生に対するリクルート中及びトランスファーポータルを通じて、学校が学生アスリートをリクルートするために直接“Pay for Play”のオファーをすることを禁止しており、NCAA加盟校が学生アスリートに直接金銭を支払うことは固く禁じられています。
その代わり、後援者が主導するコレクティブという存在を通じて、約80％のNILディールが行われています。
さらに今年2月、Tennessee & Virginia v. NCAAという訴訟において、裁判官はNCAAが 「NILリクルート禁止令 」を施行することを禁じる仮差止命令を下しました。
その結果、学生アスリートのリクルートにおいて、学校に入学する前にコレクティブとNIL契約を交渉することが認められるようになりました。このような状況は、学生アスリートが、市場原理に基づいて自分の価値の評価を受ける機会が認められたということを意味します。また、アスリートにとっては、コレクティブとの交渉においてNILという大きな交渉材料を得たということもできます。
NILに関してはアメリカの各州によって法律が異なる
今のところ、NILに関して、アメリカのすべての州で統一的に適用される法律は存在しません。
しかし、NILについて、各州で独自の法律が定められており、NCAAの規則と同様に、NILに関与するすべての当事者（学生アスリート、コレクティブ、大学、寄付者）は、適用されるNILの州法を遵守しなければなりません。
学生アスリートは、NILによって学生ながらにして大金を得る道が開かれたわけではありますが、同時に自らの身を自分で守る必要が生じたともいえます。
例えば、スルカの件も一筋縄ではなく、彼の代理人であるクロマーティ氏は、UNLVが所在するネバダ州においてスポーツエージェント（代理人）としての免許及び登録を受けていませんでした。ネバダ州では、未登録のスポーツエージェント行為は軽犯罪に該当し、6ヶ月以下の懲役又は5万ドル以下の罰金に処される可能性があります。
ちなみに、ミシガン州でもNIL取引は法律によって管理されていますが、NILエージェントが州のライセンスを取得することは義務付けられていません。しかし、ミシガン州のほとんどの学校は、エージェントや代表者を各校の体育局（Athletic Department）に通知し登録することを義務付けています。
今回のスルカの一件において重要な要素は、NILディールが書面化されていなかった点にあります。正式な契約書がなかったことが、現在の「言った・言わない」論争につながっているわけですが、こうした問題はこの件に限ったことではありません。適切なエージェントによってしっかりと契約が書面化されていれば、今回のような騒動にはならなかったかもしれません。
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