NCAAによるミシガン大学への制裁について

ミシガン大学

ミシガン大学フットボールについて散々記事を書いているブログですので、この話題に触れない訳にはいきません。シーズン開幕前にこの話題に言及するべきだったのですが、公開時期が遅くなってしまい申し訳ございません。

制裁の内容

まずはNCAAからミシガン大学及び関係する個人に対して科された制裁の内容について。
2025年8月(具体的には8月15日)、NCAAはミシガン大学に対して、過去のサイン盗み(対戦相手のシグナルを不正に収集・分析する「KGB」スキーム)や関連するコーチ・スタッフの協力拒否・証拠破壊などの違反行為を踏まえ、以下のような制裁を科しました:

ミシガン大学(大学本体)への制裁内容

  • 公的な非難および譴責(public reprimand and censure)
  • 4年間の追加的保護観察(probation)
  • 経済的制裁(合計では 2,000万ドル以上、場合によっては3,000万ドルを超える見込み)
    • 50,000ドルの罰金及びフットボール部門の予算の10%相当額の罰金
    • 2025-2026年のポストシーズン収益分配をすべて没収
    • 2025-2026年シーズンの奨学金費用の10%相当額の罰金
  • 2025-2026年シーズンの公式リクルート訪問の25%削減
  • 14週間にわたるリクルーティング関連のコミュニケーションの禁止(4年間の保護観察期間中)

個人への制裁内容

  • ジム・ハーボー(Jim Harbaugh)(前ヘッドコーチ)
    • 10年間のショーコーズ命令(show-cause order):その期間はすべてのスポーツ関連活動に従事できず、雇用したい機関は例外を正当化する必要がある
  • コンナー・スタリオン(Connor Stalions)
    • 8年間のショーコーズ命令
  • デナード・ロビンソン(Denard Robinson)
    • 3年間のショーコーズ命令
  • シェロン・ムーア(Sherrone Moore)(現ヘッドコーチ)
    • 2年間のショーコーズ命令
    • 合計3試合の出場停止処分:ミシガン大学が自主的に2025年シーズンで課した2試合(セントラルミシガン大学戦及びネブラスカ大学戦)、及び、NCAAが追加した2026年シーズンの開幕戦

制裁の背景と評価

本事件は「Level I-Aggravated」に分類される極めて重い違反とされながらも、多くの現役選手を罰しないという配慮から、カレッジフットボールプレーオフへの出場禁止という制裁は行われませんでした。

また、2023年シーズンのナショナルチャンピオンも維持されました。

多くのメディアや識者からは、経済的制裁が重視され、従来の競技停止よりも「財布を狙う」罰則に舵が切られた傾向と評価されているようです。

この制裁内容を見た私の第一感は、「ナショナルチャンピオンの記録が取り消されないで良かった…」というものです。多くのミシガン大学ファンは同じ気持ちだったのではないでしょうか。金銭的制裁は相当重いですが、お金の問題であればお金で解決することが可能です(きっと大口支援者がポンとお金を出してくれるでしょう)。しかし、勝利はお金で得ることや解決することはできません。

カレッジフットボールプレーオフへの出場権が剥奪されることも避けられました。「現役の選手には帰責性がない」という理由も含め、妥当な判断だったのではないでしょうか。ジム・ハーボー前HC(現LAチャージャースHC)は、もうカレッジフットボール界に戻る気はないでしょうし、スタリオン氏らを雇うチームはないでしょう。また、シェロン・ムーアHCが合計3試合(特にアウェイでのネブラスカ大学戦)でサイドラインに立てないのは痛いですが、2023年シーズンは当時のHCであるハーボーが7試合もサイドラインに不在だった(アウェイでのペンシルベニア州立大学戦や超大一番のオハイオ州立大学戦も含む)にも関わらず全勝で切り抜けられたので、決定的なものではありません。

さて、今回の制裁と対比して、NCAAからの制裁により勝利が抹消されたオハイオ州立大学の事例と比較してみましょう。

オハイオ州立大学のフットボール部が 12勝を抹消(vacated) されたのは、いわゆる 「タトゥー・スキャンダル(Tattoo-gate)」 と呼ばれる不祥事が原因です。

これは、2010年シーズンの出来事が発端となりました。複数の選手(QBのテレル・プライヤーら)が、チームの記念品やチャンピオンシップリング、ジャージなどを地元のタトゥー店と交換し、無償または割引でタトゥーの施術を受けていたという出来事です。

NCAAのルールでは、選手が自らのアマチュア資格を保つために、金銭的価値を持つ物品やサービスを受け取ることは禁止されていたため(現在は大々的に選手への金銭や物品の授受がなされていますが…)、これが重大な規則違反とされました。

2011年に発表されたNCAAの処分は非常に重く、

  • 2010年シーズンの全12勝を抹消(vacated)
  • 2011年のボウルゲーム出場禁止
  • 奨学金枠の制限(2012年から2014年の3年間で計9枠削減)
  • 大学に対する3年間の保護観察

という制裁が科された上、当時の名将 ジム・トレッセル(Jim Tressel)ヘッドコーチは、選手の違反行為を知りながらNCAAに報告しなかったため、大学から辞任に追い込まれました。

オハイオ州立大学が受けた12勝の抹消という処分は、選手が記念品を不正に物品やサービスと交換し、それを監督が黙認したことが原因でした。ルール違反そのものよりも、「隠蔽・報告義務違反」が特に重く見られ、大学の戦績剥奪につながったとされています。

今回のミシガン大学の事件とこの事件と比較すると、「出場資格のない選手が関与していたか否か」という観点から、勝利の抹消やボウルゲーム出場禁止といった制裁内容の差異が導かれたようです。

ミシガン大学の今回の一件は、NCAAによる制裁の前例として、今後の大きな参考になるものと思われます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました