別記事にてHouse v. NCAA訴訟の和解の最終承認を受けてミシガン大学の体育局長から送られたメールを紹介しましたが、本記事では改めて和解の内容について説明をしたいと思います。
2024年秋、クラウディア・ウィルケン判事は、さまざまな大学スポーツ選手と全米大学体育協会(NCAA)との間の和解案を予備的に承認しました(昨秋の予備承認時の記事はこちら)。しかし、ウィルケン判事は、同時に、発効をかなり先延ばしにしました。それから8カ月以上が経過し、訴訟係属から5年近くの歳月が経った末、ようやく和解案の見通しが発表されました。
和解内容
2024年10月7日、ウィルケン判事は28億ドルの和解合意案を支持する判断を下しました。
この条件では、特に学生アスリートとPower 5カンファレンス(ACC、Big Ten、Big 12、Pac-12、SEC)間のレベニューシェアリング(収益分配)ビジネスモデルが規定されており、最終承認の公聴会は2025年4月7日に予定されていました。これを踏まえて、多くの異議と書簡が提出された後、裁判所は初回の最終承認公聴会にて、最終的な判断を下すには時間が必要だと判断しました。それから約2か月後、ウィルケン判事は大学スポーツ界を変える決断を下しました。
本件和解が学生アスリートへ及ぼす影響
2020年、6人の学生アスリートがNCAAをシャーマン法(日本でいう独占禁止法)違反で訴えました。各訴訟は後に併合され、今回の訴訟に至りました。学生アスリートたちの主張は、NCAAがアスリートの肖像権(「NIL」)の使用に対する第三者からの報酬を全面的に禁止していること、及び、ディビジョンIの奨学金に関するその他の制限を巡って展開されました。
6月6日に承認された和解案では、学生アスリートはNILの使用と競技成績に対する補償を受ける権利があるとされました。これにより、大学が学生アスリートに対して、NILコレクティブを通じてではなく、直接NILの使用料を支払うことができることとなります。今後10年間にわたり、ディビジョンIの学生アスリートは、Power 5に属する大学の年間競技収入の22%(「プールキャップ」と呼ばれます)を上限として、直接報酬と利益を受け取ることができます。ちなみに、ディビジョンIだけでも350校の大学と20万人近い学生アスリートがおり、NCAA全体ではこれらが1100校及び50万人に上ります。
大学は、特定の制限の下で、学生アスリートがブランド等のスポンサー・第三者からNILの支払いを受けることを認めることができます。しかし、和解の一環として、第三者との取引はより精査されることになります。和解案では、第三者コレクティブ等から提示された600ドル以上の第三者取引を評価する「NILクリアリングハウス」の設立が認められています。デロイトは、「NIL Go」と呼ばれるこのクリアリングハウスを運営するためのソフトウェアを作成し、複数の要素を考慮して取引が公正な市場価値を示しているかどうかを判断します。
また、カンファレンス(ACC、Big Ten、Big 12、SEC、Pac-12)は、デロイトと連携して、「和解条件の履行及び収益分配・第三者NIL取引・ロースター制限の規制」を行うために「College Sports Commission」と呼ばれる新しい組織を設立します。この委員会は、規則を設けたり、違反の可能性を調査したり、違反が発見された場合は仲裁プロセスに参加したりすることが予定されていますが、テネシー州の法律(大学やNILコレクティブが「プールキャップ」を超える支払いをし続けることを認めています)など、いくつかの州法と矛盾するような機能を持つため、この組織の機能と有効性には多くの疑問が残されています。
和解の対象となる者は、以前の支払禁止によって逸失した金銭として28億ドルの損害賠償を受ける予定です。
次に奨学金に関する影響について。
ウィルケン判事の承認により、奨学金制限の代わりにロスターキャップが導入されることになりました。ロスターキャップは、より多くの学生に奨学金の機会を提供するために機能します。また、ロスターキャップは、チームの出場可能選手の枠を一定数に制限するものですが、多くの競技では、ロスターの枠が大幅に増加することになります。
同時に、学生が個別に受け取る奨学金の総額は減少する可能性があります。現在では、すべての大学が、部門や競技に関係なく、すべての奨学金付与に関して裁量を行使することができます。その結果、部分的な奨学金を受け取る学生もいれば、授業料全額を受け取る学生もいます。唯一の条件は、大学が規定のロスター数の上限内に収まることです。
和解が大学へ及ぼす影響
和解案で認められた新しいビジネスモデルは、2025年7月1日まで発効しません。しかし、これらの機会に参加(オプトイン)したいNCAAのディビジョンIの大学は、6月15日までに参加することを約束しなければなりません。
もし大学がオプトインを決定した場合、ウィルケン判事によって承認された和解案の条件に従うことになります。NCAA加盟校はすべて同じ条件と規定に従うことになります。各校は、和解案で規定されているロスターの上限及び学生アスリートに支払われる追加的給付がプールキャップを遵守していることを証明し、和解案に従って行われたすべての給付を報告しなければなりません。和解案の承認日から最終的なオプトイン期限までの時間は限られており、各校がレベニューシェアリングモデルやその他の方針を確定するための時間はほとんど残されていません。
さらに、カレッジスポーツ界には、州法と連邦法の矛盾抵触、学生アスリートの従業員としての分類、タイトルIXなどに関する懸念が残されています。最も注目すべきは、和解案が既存の州法NILに抵触する可能性があり、NCAAに対して新たな訴訟を起こす可能性が高いという点です。
例えば、ミシガン州の法律では、「中等教育機関、体育協会、カンファレンス又はインカレを管轄する権限を持つその他の団体や組織は. . .中等教育機関に入学する見込みのある学生アスリートに対し、当該選手の氏名、肖像、または肖像権に関連する報酬を提供してはならない」と定められています。
ミシガン州のような州法を念頭に、連邦議会は、州のNIL法を専占(連邦法が州法よりも優先されること)し、NCAAに独占禁止法の適用除外を認めることで、これらの障害をクリアする法案を議論しているようです。伝えられるところによると、テキサス州選出の上院議員が、連邦NIL法を策定する超党派グループを率いているとのことですが、現時点では連邦NIL法が制定される可能性は未知数です。
今後もHouse v. NCAA訴訟の和解成立による学生アスリート及び大学への影響は目を離せません。また大きなアップデートがありましたら、このブログでも取り上げたいと思います。
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